第7回:温泉についての基礎知識

1. 定 義


 一般には、無機化学成分(鉱物質)を多量に含む通常水(淡水・真水)以外の湧泉の内、加熱しなければ入浴に適さないものを「鉱泉」と呼び、そのままか、あるいは冷水を混じて入浴する高温の湧水を「温泉」と称しているが、温泉法では、下表の温度と物質量を含有するものを「温泉」と定義づけている。


 


2. 温泉の分類

  1. 湧出状態による分類

    自然湧水、鑿井泉、吹上泉、間歇泉、温泉ガス

  2. 医学的分類
    温  度
    冷鉱泉 25℃未満
    微温泉 24℃〜35℃未満
    温泉 32℃〜44℃未満
    高温泉 42℃以上
      水素イオン濃度
    強酸性泉 pH 2未満
    酸 性 泉 pH 2〜4  未満
    弱酸性泉 pH 4〜6未満
    中 性 泉 pH 6〜7.5未満
    弱アルカリ性泉 pH 7.5〜8.5未満
    アルカリ性泉 pH 8.5〜10 未満
    強アルカリ性泉 pH10以上

     以上のほかに、浸透圧による分類、緊張度による分類、化学組成による分類、効能による分類等がある。
     この他、学術上(地球科学・地質学的見地)からは、次のような分類が成されている。

  3. 地球科学的分類

     温泉は、地下深部から上昇する熱水と、地下浅所に帯水する地下水とが混合して湧出する場合が多い。

    熱水型温泉

     地下のマグマの成分から分離、又は分泌された熱水が上昇し、主成分となって地表に湧出したもの 
    地下水型温泉

     地下水が地下の岩石を伝わる地熱によって加熱され、昇温した結果温泉化したもの。
    海水型温泉

     地下深部から上昇する熱水が、海水に混入して温泉となったもの。
    化石水型温泉

     海水が地質時代に地層中に閉じ込められた「化石水」に、熱水が混入したもの。
    油田やガス田に見ら れる温泉に多い。
  4. 地質学的分類
    裂 罅 泉

     岩石中の不規則な裂罅を満たし、かつ、この裂罅を通って地表に湧出する温泉。温泉の基本型。
    層 状 泉

     温泉が堆積岩(堆積物)中の含水部分に帯水し、通常の地下水と同じように、水平的な広がりを持って存在するもの。
    貯 留 泉

     温泉が不透水層の介在によって、堆積岩(堆積物)中の含水部分、あるいは基盤岩層ないし貫入火成岩体中の裂罅を満たし、不透水層の下に貯水されているような状態を示す場合を指す。この例はあまりない。

 

3. 温泉の熱源

  • 第四紀の活火山の熱エネルギー
  • 第四紀の活火帯の熱エネルギー
  • 第三紀火山岩類の余熱
  • 第三紀グリーンタフ(緑色凝灰岩)地域の残留熱
  • 火成岩体、及び火成鉱床の残留熱。
  • 第三紀層の厚層の底の地熱(自然昇温熱)
  • 地熱地帯の熱エネルギー

4. 温泉地の地域性

  1. 第四紀の火山地帯、及びその周辺
  2. 第三紀の火山岩体の分布する地域、及びその周辺
  3. 第三紀グリーンタフ地域
  4. 厚い第三紀層の分布する地域(厚層底まで掘鑿するケース)
  5. その他(地熱地帯、金属鉱山、炭鉱、海底温泉、洞穴内温泉 他)

 

5. 温泉の徴候


 温泉は、自然に湧出するほどの水圧を持っているので、温泉が地下に潜んでいるような場所では、その一部が地表に漏れて温泉徴候を示すことが少なくない。一例を示すと、

  • 湧出する地下水の水温が、年間を通して、他所の水温より高いこと。
  • 臭気のある水や、口に含むと刺激を感じる水が湧いていること。
  • 湧水孔に鉱物質の沈着が著しいこと。
  • 火山地帯や地熱地帯で、植生が周囲と著しく異なる場所であること。
  • 熱水性金属鉱山の近くであること。
  • 積雪地帯では、周囲に比べ著しく融雪が早く、積雪量も周囲より異常に少ないこと。
  • 河川の水温が年間を通して周囲の流水より高く、生ぬるい水となっていること。

 

6. 地下の昇温と温泉


 地球は、内部に行くに従い、高温になっているが、地殻部分においても、地下深所に行く程昇温することが知られている。仮に、地下増温率 3℃/ 100m、恒温帯の地上温度(気温)が15℃の場所で、地下1000mの温度を概算すると、約45℃、2000mでは約75℃となる。この地下に流動しない地下水が存在するなら、地下水自体もそれぞれ約45℃、75℃に近い水温となっているはずである。

 ボーリングなどの手段で、この地下水を採り出すなら、導管内の温度降下を15℃〜20℃と見ても、それぞれ30℃、並びに55℃の水温で揚水され、温泉法をクリアする立派な温泉になる。このように純粋の地下水でも温泉になる可能性を持つが、問題は1000m、あるいは2000mの地下に汲み上げても枯れることのない程、豊富に「深層水」が存在するかどうかである。地下の温度の方は深く掘れば掘る程高まって行くが、肝腎の「水」が充分なければ温泉は湧き出さない。

 鳥羽・志摩地方には、特に沿岸部に分布する中生代等の分厚い地層を1000m以上掘鑿し、塩水化した高温の深層地下水(深所ゆえ他の化学成分も若干溶存する)を汲み上げた、「深層水温泉」が次々にオープンしているが、普通の海水も濃縮して沸かせば温泉とみなすことができる。

 

(原文:2001年作成、2010年3月3日 一部加筆・修正)

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